影響力の武器 ロバート・チャルディーニ

影響力の武器

ロバート・チャルディーニ

 

人の心理を扱った本で、非常に興味深かった。

すべての章に概要と細かい事例が掲載されており、理解もしやすかった。この本で得た知識を使って、物事を観察するのも面白いと感じた。完全な理解のために必要なのは、自分でどのぐらいの量の事例を作れるかだ。

 

副題の「なぜ、人は動かされるのか」とあるように、人が行動する心理学的な要因を詳しく解説している。それは営業や広告、はたまた詐欺にも応用できるような、膨大な知識量・考察だった。

今こうしてパソコンで文字を入力している私は人類であり、他の動物部門と比べると技術力が圧倒的に違う。人類と動物の違いは、そういった技術などを扱うことできる思考力であり、人は膨大な選択肢の中から一つを思考し、選択することができる。

ただ、動物の中でも飛躍的な進化を遂げてきた人類も、どのようにして行動するのかという要因を紐解けば、案外原始的であると言えるのかもしれない。

 

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この本で面白かったのは、営業や広告といった日常的に体験しているものを、言葉で表現できている点だった。

現会社では、トップ営業マンがいる。一人で1から10までこなすことができる。しかし、その人は営業を上手に教えることができない。

 

「営業はセンスだ。」

私がどのようにして営業が強くなりますかと伺ったときに、言われた言葉だ。正直、理解できなかった。

この本を読んでみて、なぜトップ営業マンはあの言葉を言ったのだろうかと、今なら理解ができる。彼は営業を感覚でしている人間であり、なぜ客が購買したのかを説明できる明確な言葉を持たなかった。感覚を理論に直すことができなかったのだ。

 

比べて著者は、購買プロセスをより理解するため、自ら営業職をし、その中で知見を深めている。そして出版したこの本は、どれほど今の社会に影響を与えたのかわからないほど売れている。(推計200万部)

売れた理由として、人がなかなか言葉に直すことができない、購買のプロセスや人間の心理的行動が多く示されていたからだろう。

 

この本を読んで言えることは、どのような人の行動も、数学の因数分解をするかのように、言葉で分解することができるのでないだろうかということだ。上に示したトップ営業マンもそうだが、言葉にできないのは、そうした理論を知らなく、感覚だけで捉えようとしてしまうからだろう。つまり、理論と行動力と観察しようとする目線を鍛えることができれば、あらゆる心理を理解し、使うことができてしまうのではないだろうか。

 

 

要約

  1. 影響力の武器
  2. 返報性
  3. コミットメントと一貫性
  4. 社会的証明
  5. 好意
  6. 権威
  7. 希少性

 

1.影響力の武器

承諾の過程の多くは、自動的で簡便な反応を行おうとする人間の習性に則ったものである。

私たちの文化の中では、大多数の人が、承諾の導く信号刺激を備えている。そして、これらの信号刺激を、自分の要求を通す武器として用いる人々がいる。

人は思考を張り巡らせて、すべての物事を判断する動物ではない。そんなことをしていたら、脳がパンクしてしまうだろう。そのため、「カチッ・サー」をとまるでスイッチが入ったかのように思考を停止し、行動をし始める。

このような「てっとり早い」反応の利点は、その効率性と経済性にある。役に立つことが多い信号刺激に自動的に反応することによって、人は、貴重な時間やエネルギー、精神能力を節約できる。

間違いを犯す可能性が一層高まるのは、ほかの人間が何か利益を得ようと企んでいるときである。

事例
  • 人間の母親は、寝ている最中でも赤ん坊の泣き声を聞くと必ず反応する
  • 高価なもの=良質なものと判断してしまう
  • 列を成しているもの=良質なものと判断してしまう
  • 専門家=絶対的に正しいと判断してしまう
  • 知覚のコントラスト
  • イスラム教徒の格好をした人が荷物を投げるイタズラ動画(https://www.youtube.com/watch?v=12izdBTcBGo

 

2.返報性

人間文化のなかで、最も広範囲に存在し、最も基本的な要素となっている規範の一つに返報性のルールがある。このルールは、他者から与えられたら自分も同じようなやり方で相手に返すように努めることを要求する。

このやり方が功を奏するのは、返報性のルールに含まれる三つの特徴のためである。

第一の特徴は、このルールが非常に強い力を持っているという点にある。その強さは普通であれば要求に応ずるか否かを決めるはずの諸要因の影響力を凌駕してしまうほどである。

第二に、このルールは望みもしない厚意を最初かに相手から受けた場合にも適用される。

第三に、このルールは不公平な交換を助長する場合がある。

 

事例
  • クリシュナ協会の花をあげる行為で、入会する人々
  • いばや通信 坂爪圭吾(http://ibaya.hatenablog.com/)のブログで感動し、お金や住居を提供する人々
  • お金の利子の支払い
  • アムウェイの無料試供品戦略
  • 交渉における拒否後の譲歩
  • 無料で登録からの有料提案
  • 無料体験セミナーから、高額なセミナーへ
  • 検索エンジンを使うことによる個人情報搾取
  • ドイツ兵のパンをもらって自陣に戻る話

 

"あなたは賄賂を受け取ってはならない。賄賂は、目をあいている者の目を見えなくし、正しい人の言い分をゆがめるからである。"

 

 

3.コミットメントと一貫性

ほとんどの人には、自分の言葉、信念、考え方、厚意を一貫したものにしたい、あるいは、他者からそう見られたいという欲求があることは、心理学者の間ではずっと以前から知られていた。この欲求は、三つの要素によってもたらされる。

一貫性を保つことによる、社会からの高い評価を受けること

一貫性のある行為は、日常生活にとって有益である

一貫性を志向することで、複雑な現代生活をうまく過ごす、思考の近道を得ることができる

 

承諾を引き出す上で鍵となるのは、最初のコミットメントを確保することである。

 

承諾先取り方法について

まず相手にとって有利な条件を提示し、喜んで買うという決定を誘い出す。そして、決定がなされてから契約が完了するまでのあいだに、もともともあった有利な購買条件を巧みに取り除く。それでも相手は承諾しているため購入する。

 

事例
  • 交渉において、「内容的には納得しました」「YES」「もうすこし値段が安くなれば買いたいと思いますか」「YES」という形で、小さい約束をさせていく過程
  • 目標をコミットさせ、達成手段を考える
  • 効果のないセミナーに申し込む人間
  • 約束は守るものと叩き込まれる
  • 自分の言ったことに嘘はつけない
  • YESの梯子(フットインザドア)
  • 相手に理由をはっきりと言わせる「当社をお選びになった理由は?」
  • アムウェイ社の卓越した心理操作

 

 

4.社会的証明

人がある状況で何を信じるべきか、どのように振る舞うべきかを決めるときに重視するのが、他の人々が何を信じているか、どのように行動しているか、である。

社会的証明は二つの条件下において最も強い影響力を持つ。

一つは不確かさ、二つ目は類似性である。

つまり、情報の明暗・濃淡さであるともいえる。

 

事例
  • 空を見上げる人と、それに追随する人々
  • デレク・シヴァーズ 「社会運動はどうやって起こすか」https://www.ted.com/talks/derek_sivers_how_to_start_a_movement?language=ja
  • ナイトクラブで誰も踊ってないときに誰かが踊りだすと、みんなが踊りだす
  • ヒトラーの独裁政治
  • ウェブ広告の営業で、その分野において疎い客と、知り合いがやっている事例
  • 集団ヒステリー
  • バッファローの一団が大移動中に突然崖から飛び降りる
  • 新興宗教の洪水予言が外れた後、さらに心身深くなったこと
  • 大都市における無関心とその真実
  • 自殺に続く、自殺
  • 拍手喝采と人気度
  • お笑い番組の笑い声と観客の反応
  • ECサイトの「今3人が同時に閲覧しています」

 

5.好意

人は自分が好意を感じている知人に対してイエスと言う傾向がある。

行為に影響するのは、身体的魅力。身体的魅力はハロー効果を生じさせ、他の特性に関する評価を高めている。

類似性。自分と似た人に好意を感じ、そのような人の欲求に対しては、あまり考えずにイエスという傾向が強い。お世辞は一般に好意を高め、承諾を引き出しやすい。

快適な環境のなかで接触が起こると尚良い。

連合のプロセスによって、結びつきの効果を認識させる。

お世辞をいうことによって、好意の度合いが高まる。

人や事物と接触を繰り返し、馴染みをもつようになることも、たいていの場合は、好意を促進する一つの要因となる。

つまり、視覚や情報によりバイアスがかかることによって、結果が異なるということ。

 

ロボットなど感情がなく、論理的思考しかできない存在は、好意を感じることがないので、効率的に考えて最適な決断を下すことができる。しかし、人間は感情のフィルターがかかるので、好意を感じた場合、その影響力がどうしても大きくなってしまう。

 

事例
  • 美女と広告
  • 外見と裁判の判決
  • 営業マンは良いスーツやヒゲがない方が受注率が上がる
  • 詐欺師は見た目がしっかりしている
  • メラビアンの法則により、人の言葉よりも視覚情報が優勢に受け取られやすい
  • お世辞で気分が良くなり、仲良くなる
  • 若い女性の営業マンと、中年の男性経営者
  • お世辞を言う人を高く評価しがち
  • スポーツ選手のスポンサーをすることと、好意
  • 第一印象が全てという言葉

 

6.権威

権威者に対する服従は、短絡的な意思決定として、思考が伴わない形で生じてしまう。

権威者に対して反応する場合、その実体にでなく権威の単なるシンボルに反応してしまう傾向がある。

特に権威的に見えてしまうものの代表事例として、肩書きや服装、そして自動車が挙げられる。

つまり、話を上手く伝えるためにはの中身よりも外見が大事で、服装や装飾品も権威を表すものとして大事である。

 

事例
  • 一般社員よりも主任やマネージャー、部長などといった肩書きのある人間の方が信頼されやすいし、話も頭に入ってきやすい
  • 医者と名乗った人物に従ってしまう看護師
  • 役員会議で決定したことには、意見を言うことなく盲目的に従ってしまう
  • 戦争時の陸軍の暴走を誰も止めることができなかった
  • 教師と学習者の電気ショックテスト
  • モデルと付き合っているとSNSで自慢する友達
  • 「○○大学教授が言っていることだから、おそらく正しい」という言葉

 

7.希少性

希少性の原理によれば、人は、機会を失いかけると、その機会をより価値あるものとみなす。

手に入れにくいものはそれだけ貴重なものであることがお多いので、ある品や経験を入手できる可能性がその質を判定するてっとり早い手がかりとなるからである。

もう一つは、ある品やサービスが手に入りにくくなるとき、私たちは自由を失っているからである。

私たちは支配、権利、自由などの制限に対してとりわけ敏感である。

 

希少性の原理を、最もよく適用できると考えられる条件が二つある。

一つは、ある品が新たに希少なものとなった場合である。もう一つは、他人と競いあっている場合である。

 

事例
  • 数量限定残り3枠
  • 与えたものを取り上げる
  • 禁じられたもの
  • 革命と生活水準が上昇するなかでの逆転
  • 過って製造されたコインの値打ち
  • 期間限定キャンペーン

 

まとめと感想

広告やマーケティングを上手くするためには、人に選んでもらわないといけない。ただ単にクリエイティブになって、独りよがりな広告を作っても意味がない。人の心を盗んで、購買して頂くプロセスを知ることが大事だ。

その上では、常日ごろから影響力の武器が、どのように利用されているかを見てみると面白いかもしれない。

 

私は以前、テレフォンショッピングの受電をするバイトをしていたことがある。内容は、女性物の下着の受電販売だった。

朝の4時、短い放送が終わらないまま電話が鳴り始める。社内にいるオペレーター100人が受話器を握り、電話を繋げる。それでも掛かってくる電話に対してオペレーターが足りず、買いたいと思って電話をかけてきた人は、ほぼ繋がらない状態であった。振り返ってみると、影響力の武器がふんだんに使われていたんだと実感する。

 

テレビショッピングでの値段表示が、「30分限定値下げ!今すぐこちらのフリーダイヤルへお掛けください!」だったため、希少性の原理が働き、おばさん達は一斉に電話番号へコールをする。

運良く繋がった人は、「今テレビを見て買おうと思って、Mサイズはどのぐらいの大きさになりますか?」と聞き、それに答えると、「あー、サイズが合わないですね。どうしようかな。」と悩み出すケースがあった。

普通だったら、サイズが合わない時点で買わない判断するのが賢明だと思う。しかし、希少性の原理、そして一貫性も保ちたいという心理も働くため、どうしても買う方向に向かう。

そして私はこう言う。「みなさんも大体このぐらいのサイズですよ。」これで社会的証明も補った。もちろん好意的な印象を持って頂くため、声は努めて明るく元気に振る舞った。最終的にその人は購入に至った。

 

テレビショッピングなので、ほぼほぼ受注になるのは当たり前なのだが、改めて理論に直してみると面白い。このようなプロセスがあったとは今まで気づかなかった。

 

きっと世の中にはもっと複雑に入り組んだ影響力の武器があるのだろう。それを発見してみるのもまた一興と感じた一冊だった。